鈴鹿の家

三重県 施工|ASJ松阪・四日市スタジオ 撮影|小川重雄

設計|岸研一

Architect's comment

暖かな灯りで家族を迎える、心地よい空間。

敷地は、標高1,200m前後の鈴鹿山脈の東側裾野で、古い民家が建ち並ぶ集落に在る。東側の山裾であるため、西日の影響は受けにくい反面、日照時間が短く、鈴鹿おろしと呼ばれる山風による気象の影響も少なからず受ける地域である。築55年の母屋と前庭を共有するかたちで建物を配置した。

迎門をくぐり、屈曲した長いアプローチがある前庭が、新旧の建物を緩やかに融合してくれる。瓦葺で大きな切妻屋根の母屋の屋根形状を継承し、母屋と同じく4寸勾配の切妻屋根を、近代の素材であるガルバリウム鋼板横葺きで次世代へ繋ぐデザインとした。

この家のメインとなる大きなL型の配置のLDKは、一部平屋建てで、屋根勾配なりの高い天井高を確保した。東西に抜けた開口部からは緑が見え、視線の抜けと共にリビング空間がそのまま外部に流れ出るテラスを設けた。隣家がある南側には開口部を設けず、日中は直射日光を避け、明るく照らされた東西に在る庭の生き生きとした緑から心地よい光と風を内部に取り込む計画である。

LDKは、勾配天井やさまざまな天井高、床の段差を設けることで空間に変化をもたらし、ほどよく分割し、家族にさまざまな居場所を作った。どの場所からも庭の木々が見える空間である。

年頃の子供たちと共働きのご夫婦の5人家族が、それぞれの生活リズムで好きなことをしながらも、同じ空間で同じ時を過ごすことができるリビング・ダイニングは、多様化した現代の生活には必要不可欠である。

成長し、巣立っていく子供たちにとってはこの家が原風景となり、日が暮れて迎門をくぐると、前庭の木々越しに浮かんで見える、灯りがついたリビングが、家族にとって帰る場所になるような家になってほしいと願っている。

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