春の家

愛媛県松山市 施工|ASJ 松山中央スタジオ[株式会社富士造型] 撮影|杉野圭

設計|高吉輝樹/TT Architects

Architect's comment

ソメイヨシノの樹の下で。 春を喜び、子の成長を喜ぶ。

場所は愛媛県松山市の市街地。景観条例が敷かれている地域で、近隣にある歴史的景観資源や、風情のある水路や石畳が周囲の豊かな自然景観を醸し出していました。また、敷地には樹齢の深い、高さ 10m を超えるソメイヨシノの樹が植わっていました。この樹を主眼において設計することが、クライアントからの強い要望であり、私たちもそう在りたいと考えました。

まず、周辺には中層のマンションなどもあることから、垣根程度ではプライバシーの確保は難しく、敷地を3mのRC壁で囲うことにしました。高い壁は、街に対して閉鎖的な印象になりがちですが、壁を分節し、道路に面するポーチを広めに設けることで、周辺環境に圧迫感を与えないように配慮しました。また歴史的景観との調和のために、コンクリートは杉板型枠を選びました。石畳の歩道を行き交う人々は、その壁を超えて桜の樹冠を見渡すことができます。

建物は、桜の樹を囲うようにコの字型のレイアウトとし、ヴォリュームを前面道路からセットバックするにつれて、1層から2層に上げていくことで、自然にスケールアップをしています。

家族が集まるリビングを落ち着ける場所とするために、他のフロアレベルから1段下げ、ダウンリビングとしています。またリビングの天井高を3.7m とし、子供たちが使う2階のワークスペースとガラスで繋ぐことで、子供たちの気配を感じられるようにしています。

色彩計画については、桜のピンク色を強調するために、建築材料を無彩色のグレーに統一しました。色は同一で、コンクリート、石、タイル、金属、ファブリックなど、素材を変化させることで、マテリアルエクスペリエンスを体感できるように試みました。またグレーのみだと無機質となるので、外壁材、フローリング材の木部は生地のままとし、温かみを感じさせる建築となっています。

もうすぐ竣工という春に、クライアントに新たな子が生まれました。大きな桜の樹の下で、子供たちが自由に遊び、このソメイヨシノが子の成長を見守ってくれることを願います。

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